Take It Easy

語りたいこと。備忘録。

感想文:督促OL 修行日記

 

督促OL 修行日記 (文春文庫)

督促OL 修行日記 (文春文庫)

 

 

<ネタバレ感想>

実は私、以前の職場で「督促」の電話を受けたことがあります。あ、私が借金したわけじゃないですよ。当時の職場の社員さん(仮名A氏)が、ヤバめの金融業者から借金をしていて、その取り立ての電話が会社宛にかかってきたんです。この本の作者さんは、おそらくちゃんとした信販会社のキャッシング部門で債権回収業務をされていたんだと思いますが、A氏が借りた先はそうではなく、電話番をしていた私は当時えらい目にあいました。ババアだのブスだの殺すだの、なんも関係ないのに罵詈雑言の嵐(涙)なんでやー!!

そんな経験があったもので、「督促」というと、怖い男の人がおびただしい量の暴言を吐き「金返せ!」と脅すもの、という偏った認識でした。映画の世界ですね。いや、でもほんとにそんな感じの電話でしたよ。怖い怖い。でも、きちんとした会社の債権回収業務となると、立場は逆になってしまうんですね。

 

作者・榎本さんの職場は、カード会社での債権回収業務(要は借金の取り立て)。支払えないお客さんから怒鳴られたり泣かれたり、殺すだのなんだの脅迫まがいのセリフを吐かれるのが日常茶飯事のコールセンター。(浴びせられている暴言が、私が受けた督促の電話にそっくりでした。立場は真逆なのになぁ。) 新卒で入社して、何の事前告知も予備知識もなくこんな部門に配属されたら、もう気を失って倒れてしまいそうですよね。当然、バタバタとみんな戦線離脱していく。その中で、作者さんは、出来ないなりにコールセンターで成長の糸口を見つけていく。

 

「人間への対応」と「ストレスへの対応」。工夫を重ね、試行錯誤を続けることで自己成長へと繋がっていく流れは、読んでいて気持ちが良かったです。私がこの本を読んでいて良いなぁと思ったのは、どんなにボロボロになっても作者さんがへこたれないところ。そして、思いやりの気持ちを持ったまま、どんどん成長していくところ。正直、出来れば自分にはかかわりのない存在であってほしいジャンルの仕事ではありますが、読んでいると何となく魅力的な仕事にも思えてくるから不思議でした。コールセンターで一緒に働いている人たちも、自身のタイプに合わせてそれぞれが工夫して業務をこなし、自分のスタイルを確立していっている。月並みな表現だけど「カッコイイ」ですよね。

私も気が小さい方なんで、怒っている人への対応の仕方なんかは勉強になりました。私も「罪悪感」に訴えるしかできないだろうなぁ…恐怖心を与えるなんて無理だろうし…(笑)謝罪の仕方とかも、これは色々と使えそうです。

 

世の中には色んな道を選んでいる人がいるんだなぁ、と心底思う。「自分にしかできない仕事」なんてそうそう無いし、たいていの仕事は他の人でも出来るもの。代わりがいるんですよね。督促の仕事は、特に人の入れ替わりや使い捨てが激しそうな現場です。

それでも、どんなにつらい仕事であっても、納得いかないことがあっても、気の持ちようで成長することが出来るのは確か。置かれた環境に文句を言うのは簡単だし、実際どうしようもないクズな環境ってあるけど、それでもなんかもうちょっと頑張ってみたらいいのかも、と思わせてくれる本でした。おすすめです。

感想文:ユージニア

 

ユージニア (角川文庫)

ユージニア (角川文庫)

 

 

<ネタバレ感想>
恩田陸のミステリって、犯人とか真相とか分からないまま終わること多いですよね。この「ユージニア」も然り。面白いから読み進めちゃうけど、ほぼ理解出来た気がしないな…笑。インタビュー形式で、語り手がコロコロ変わっていく感じは「Q&A」を思い出しました(あれも真相は分からずじまいの話でしたね)

 

ネットで人様の感想文を拝見しつつ、自分でも咀嚼してみた結果、私は「直接的な犯人=緋紗子の母」と解釈しました。
状況的に「順二がジュースをもらった段階で毒は入っていた」=「自殺した男はこの時点でまだ飲み物を配達していない(後で向かった満喜子がこの男に道を尋ねられている)」≒「毒を入れたのは家の中の人物」かなと。緋紗子も家にはいるだろうけど、毒を入れるのは厳しい気がする。緋紗子の願い(青い部屋の懺悔)を聞いた母親が、自分を含めた家族の皆殺しを図ったのでは。自殺した男がどの程度、どういう風に唆されたのかは分かりませんが、殺害については彼は冤罪だったと私は思います。緋紗子が犯人じゃないと分かったからこそ、犯人だと思っていた満喜子はショックだったんじゃないでしょうかね。

 

だからと言って、緋紗子が完全なるただの遺族かといえばそうでもない気はする。緋紗子は、母親がこれから起こす惨劇を分かっていて、それをどこかで望んでいたんじゃないかなぁ。それこそ、飲み物に毒が入っていると知りながら、誰にも言わなかった順二のように。彼にしてみれば、教えなかったところで苦しむのは自分を見下してくる青澤家なんだし、緋紗子も自分の望み(=一人になりたい)が叶えられるわけで、二人とも「まぁ、いっか?」ぐらいの感じだったんじゃないですかね。事の重大さとか、あんま深く考えてなさそう。
「何かを知っている、というのは罪なのだろうか」ってセリフがあったけど、後々この罪に潰されたのが順二、この罪によって解放されたのが緋紗子って感じがします。

 

まぁ、それもフィクションだとか嘘だとか言われたら分かんないですけどね。第3章なんて「忘れられた祝祭」の本文だろうから、満喜子のフィクションかもしれない。犯人は、緋紗子でも、自殺した男でも別にいいんでしょう。何なら、緋紗子がお母さんと男を唆したっていう、緋紗子真犯人の全員共犯でも面白いかも。

感想文:帝一の國

 

映画ノベライズ 帝一の國 (JUMP j BOOKS)

映画ノベライズ 帝一の國 (JUMP j BOOKS)

 

 

 映画『帝一の國』公式サイト

 

<ネタバレ感想>

原作は未読です。なんだか重い映画が続いてしまったので気分を変えたく、馬鹿馬鹿しそうな映画は無いかなと探して、上映していた中で一番馬鹿馬鹿しそうだったやつを選びました(ひどい)。結構良かったですね。馬鹿馬鹿しいんだけど、ほんのり良い話で、それでも一筋縄ではいかない感じでまとまっていて、面白かったです。

 

何の予備知識もなく見たわけですが、この映画面白いなぁとまず思ったのは、単純に「帝一が主人公」っていう点だったりします。王道の学園モノなら、大鷹弾が主人公でしょう?裏表なく正義感があって、みんなを引っ張る求心力がある。少女マンガ系でも典型的なヒーロータイプ。爽やか。いいやつ。

帝一はそれに比べると、お前…と呆れたくなる程の策略三昧。よその映画なら悪役だろうなぁ。それでも、夢・目標に向かって一直線で、そのための努力は惜しまない。個人的にあんまり見たことない主人公タイプの学園モノだったんで新鮮でした(コレを学園モノって言っていいのか分かりませんが)。

 

帝一みたいなのが主人公になっているのも、この物語の延長線上に「政治」があるからなんですよね。そう考えると現実的な話だよねコレ。いい歳してあまり政治とか詳しく語れないタイプの私からすれば、大鷹弾のような人に世の中を正しく良い方向にスカッと導いてほしいもんですが、現実には帝一のようなタイプが力を発揮するんだろうなぁ。

「父さん、ピアノが弾きたいよ」の部分は結構ホロリとさせられました。意外と、子育てとか親子のあり方みたいなところにも切り込んでますよね、この映画。

 

色々ネタも満載で面白かったです。とりあえず、マイムマイムをこういう形で見ることになるとは思わなかった。くだらない!笑

原作を知らないのでキャラクターの再現具合については何とも言えませんが、キャストもみんな良かったです。菅田将暉は映画見るたび違う人のようだなぁ。私が彼を最初にちゃんと見たのは「海月姫」で、その女装姿のあまりの可愛さに衝撃を受けて「私もダイエットする…!」と錯乱したのもいい思い出ですが(おいおい)帝一は女装しても全然可愛くなさそうです。俳優さんってすごいね(どんな観点)。個人的には、菊馬のザコい小物感がなかなか好きでした。笑 

感想文:ダンサー・イン・ザ・ダーク

 

ダンサー・イン・ザ・ダーク [DVD]

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<感想>

 「ミュージカル映画」だとは知らなかったので、工場で突然歌い踊り始めた時はビックリしました。(セルマの妄想だし、一般的なミュージカル映画とは少しジャンルが異なるけど。)それでも、この楽しそうに歌い踊るシーンが、この映画見ている私自身を作品の悲壮感から引き上げてくれると同時に、よりどん底の現実へ突き落す役割を果たしてて面白い。

救いようのない鬱ラストとして有名な映画なわけですが、バッドエンドだと知らずに見た方がよりショックだっただろうなぁ。処刑のシーンは思わず息をのみました。

 

セルマはとても純粋で意思の強い人なんだろうけど、「幼い」とも表現できる人だと思います。そういう人って、自分の気持ちが何よりも先に立つから、自分の言動によって周りがどう思うかとか、どんな影響を及ぼすかが分かっていない。分かっていないから、自分の気持ちだけで自分の思うように行動してしまう。その結果、「外の世界」が不協和音を立てていても、自分の世界にまで何か影響が出てきても、どうすることもできない。だって、周りが見えてないから。

周りから見ているとイライラさせられることあると思うんですよ。「もうちょっと上手く立ち回れないの」と、見ていた私が何よりそんな気持ちになってしまいました。不器用なんだろうけど、もうちょっとさぁ…とね。日頃からあれほどサポートしてくれる親友のキャシーとか、求婚してくれるジェフみたいなのもいたのに、あんまり人間関係を上手に築けてはいなかったんだろうなぁ。(キャシーも、手術の費用を勝手に弁護士に使おうとしたのは良くはないんだろうけど、友人を助けたい彼女の気持ちは理解はできる。)

 

セルマはなんというか、「自分の世界」だけを生きている人という印象です。そこには、キャシーもジェフもビルもリンダもいない。もしかしたら、ジーンもいないかもしれない。息子のために命がけで奔走する母親の物語なのに、親子愛の印象が薄いのは、セルマがその世界から出なかったからなのかなぁと思ったりする。そういう意味でも、盲目的な生き方をしていたのかなぁ。唯一、その中身を周囲に見せたのが死ぬ間際(死刑執行直前のミュージカルシーン)だったというのも皮肉なものですね。

まぁ、そもそもお金を盗んだビルが悪いんですけどね。なんとなく精神的に幼いけど、障害を抱えながら懸命に働いて手術費用を貯めていたセルマがあのような結末になるのは、やっぱりやり切れないなぁ…。

 

でも、セルマの望みって、息子ジーンに手術を受けさせることが全てで、それ以外のことは割とどうでもいいのかなという印象だったので、最後ジーンの手術が成功したことを聞くことが出来て、本人は意外と幸せだったんじゃないかなと思ったりします。

あのお金を、手術に使うか弁護士に使うかは、ジーンが決めれば良かったと思う。まぁ、セルマは「自分の世界」の人だから、そんなの絶対嫌なんだろうけどね。 

感想文:22年目の告白-私が殺人犯です-

wwws.warnerbros.co.jp

 <ネタバレ感想>

「クズ役といえば」の藤原竜也と、「熱血漢役といえば」の伊藤英明。こんな雰囲気の役をやっているイメージが世間的にも強い二人ですが、そのイメージを逆手に取った非常にうまい配役だなぁ、と何だか偉そうに思いながら見ていました。

曽根崎の正体は、ニュース番組で正体を明かす場面がくるまで、私は全く気付きませんでした。タクミも死んだかのように描かれていたし、完全に騙されたなぁ。曽根崎はイケメンだけど終始なんか腹立つ感じで(笑)見ている側を「こいつほんと腹立つ!」って思わせる、感情を逆なでしてくる感じがさすが藤原竜也でした。「藁の楯」で似たような気持ちになったことを思い出した(あいつは最後までクズでしたが)。病院で、曽根崎が口元を押さえて牧村に小声で何かつぶやくシーンがお見事でしたね。絶対クズっぽいこと言ってるようにしか見えないもん。

事実が明らかになると、それまでの行動も辻褄が合ってくる(サイン会で襲われそうになった曽根崎を牧村が身を挺して守るのも頷ける)。見ててビックリしつつも、告白本を出版した動機としては一番納得いったし、理解も共感もできたな。

 

実際に起こった事件でも手記を出している犯人っていますけど、どういう心境なんでしょうね。まぁ、一概にこうだとは言えないのでしょうけども。最後、仙堂も手記を出しているわけですが、彼の場合は「注目を浴びたい」の一択な気がする。ソネ様フィーバーとかすごい羨ましがってそう。

 

映画としては、正直曽根崎が正体を明かす場面がピークで、細かいことを突っ込みだすと色々粗もあるのでしょうが(あの高さのビルの屋上から飛び降りて生きているのは難しいんじゃないかなぁ)、それを差し引いてもスリリングでとても面白い映画でした。満足です。

感想文:葉桜の季節に君を想うということ

 

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)

 

 

<感想>

ラブストーリーのようなタイトルだけど、ジャンル的には「私立探偵モノ」になるのかなぁ。ミステリ小説のオススメまとめとかによく出てくるから手に取ってみたんですけど、2004年のミステリー賞総なめの作品だったみたいですね。かくいう私も終盤まで全くトリックに気づきませんでした。いやぁ、人の先入観ってすごいですね。

 

トリックとしては大きく2つ、「年齢」と「名前」だと思うんですけど、驚きで言えば名前のほうが大きかったかも。年齢のほうって、読んでるとやっぱり多少違和感は感じるんですよね。実際、何回か「この人って何歳なんだっけ?」ってページを遡ったりしましたし。(それでも30代くらいの印象を受けましたけどね。)布団の即売会に紛れ込んでも怪しまれないとか、高齢の清掃員と入れ替わっても誰も気に留めないとか、改めて考えるとやっぱり妙なんですよ。まぁ、それでも騙されたわけなんですけど。その点、名前はそういう違和感が全然なくて、全く気付かなかったなぁ。お見事。

 

トーリーとしては、蓬莱俱楽部が結局どうなったのかが分からないわけなんですが、あんまり重要なことではないんでしょうね。

何歳になってもワクワク出来ることがあるって、確かに素敵なことです。私なんか、29歳で退職して、結婚の予定もなく「いい歳してこれからどうしよう」という一抹の不安を心に住まわせているわけですが、「29歳ごときのガキが馬鹿なことを抜かすな」と一喝されてしまいそうな、ある意味パワフルなお話でした。歳を取るって、実はそんなに悪いことでもないのかもね。